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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1275号 判決 1975年10月28日

控訴人

宮代幾三

右訴訟代理人

石川功

被控訴人

寺内順

右訴訟代理人

芹澤力雄

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。」との判決と、本位的請求として「被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の土地上に存する建物の一部6.93平方メートルおよび樹木等を収去して右土地を明渡せ。被控訴人は控訴人に対し昭和四八年六月一日以降右明渡済に至るまで一ケ月金九九九二円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、予備的請求として、「被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の土地のうち①記載の部分を明渡せ。被控訴人は控訴人に対し、昭和四八年六月一日以降右明渡済に至るまで、一ケ月金六二三七円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、次に記載したとおりに訂正、付加した原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(訂正部分)

一、原判決三枚目表六行目に、「別紙(二)図面」とあるのを、「別紙物件目録記載の図面」と訂正する。

二、同六枚目表四行目に「(三)同第三項、第四項はいずれも否認する。」とあるのを「(三)同第三項中本件土地上へ被控訴人の建物が別紙物件目録記載の図面のとおりニケ所合計6.93平方メートル侵出しているとの事実は認めるがその余は否認する。第四項は否認する。」と訂正する。

三、同七枚目裏四行目から七行目までの記載を削る。

(付加部分)

一、控訴人の陳述。

(一)  (予備的請求の原因に関聯して)借地法四条一項は、建物が朽廃に達しない内に、賃貸期間が満了し、建物を収去することの経済上の不利益を救済するための規定であり、この救済目的を達成させることの可能な範囲で、賃貸地を現実の使用状況に即して区分し、建物の存する部分の土地は賃貸期間を更新させ、建物の存しない土地は賃貸借を終了させることは、右規定の法意に抵触するものではなく、また、賃貸地を使用状況の如何に拘らず一体不可分に取扱うべき法的根拠もない。寧ろ現実に即し、借地法四条一項の救済規定を生かすと共に賃貸期間満了の効果をも認め、建物の存しない部分の土地を控訴人に返地することが今日の社会情勢に副う士地利用の見地から妥当なものである。

(二)  控訴人は、本位的請求においても、予備的請求においても、本件が借地法四条一項本文にいう「建物アル場合」に当らないと主張するのであつて、控訴人が更新を拒絶するのに正当事由は不要であるから、同条但書所定の事由を主張するものではない。

二、被控訴人の陳述。

控訴人の前記(一)の主張は争う。

(証拠関係)<省略>

理由

一控訴人の先代宮代芳男が、その所有の神奈川県中郡大磯町東小磯字立野五五九番宅地870.24平方メートルを、昭和二八年六月一日被控訴人に対して普通建物所有の目的で期間二〇年と定めて賃貸し、その後右土地は昭和四四年一二月一日の道路拡張により一部分筆され、原判決別紙物件目録記載のとおり五五九番一の土地(本件土地と称する)となつたこと、昭和四五年三月二〇日宮代芳男が死亡し、控訴人が相続により本件土地の賃貸人の地位を承継したこと、本件土地の北側と東側と西側の北半分とは、被控訴人の所有地と接し、北側と東側の被控訴人所有地と本件土地とにまたがつて被控訴人所有の建物(本件建物と称する)が存在し、右建物の本件土地を占拠する部分が、原判決別紙物件目録記載の図面に示されているとおり二ケ所あつて、その合計の面積が6.93平方メートルであることは、いずれも当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、被控訴人は控訴人に対し、昭和四七年一一月二九日付の内容証明郵便をもつて、昭和四八年五月三一日限りで期間が満了することとなる本件賃貸借契約の更新の請求をし、その頃右郵便が控訴人方に届いたことを窺うことができる。

三控訴人は、(イ)本件賃貸借契約は、借地法四条一項にいう「建物アル場合」には該らない。(ロ)そうでないとしても、少なくとも本件土地のうちの原判決別紙物件目録①記載の部分(本件低地部分と称する)は「建物アル場合」に該らない。よつて、(イ)の場合は、本件土地全部につき(本位的請求)、(ロ)の場合は本件低地部分につき(予備的請求)、被控訴人の前記本件賃貸借の更新請求は効力を生ぜず、昭和四八年五月三一日限りで右契約は終了したと主張し、なお、本訴では、控訴人は、借地法四条一項但書に基づく主張はしない旨付陳するので、本件の争点は、もつぱら、本件賃貸借契約が、借地法四条一項本文にいう「建物アル場合」に該当するか否かの一点に尽きるものである。よつて以下この点について判断する。

(1)  前記のとおり、本件建物の一部が本件土地を6.93平方メートル占拠している以上、物理的には、本件土地上に建物が存在していることを否定することはできない、これに対し控訴人は、本件土地上に占める本件建物部分の面積が僅少であるから、「建物アル場合」に該るとは解すべきでない旨主張するが、後に認定するとおり、本件土地は、本件建物の敷地および庭として、賃貸借契約締結以来今日に至るまで、一貫して利用されて来たものであるから、本件土地上の建物部分がいかに僅少であつたとしても、そのことから直ちに右賃貸借が、「建物アル場合」に該らないということはできない。よつて控訴人の右(イ)の主張は理由がない。

(2)  次に控訴人は、借地法四条一項の規定の趣旨からいつて、一筆の賃貸地でも、現況に即して考え、建物の敷地として使用されている部分と、使用されていない部分とに区分することができる場合に、後者の土地について賃貸借契約の更新を認めないことも、同条の解釈上許されるものであるとの前提に立つて、本件低地部分については、「建物アル場合」に該らないと解すべきであると主張する。

当裁判所も、一筆の土地の一部が建物の敷地としても、庭としても全く使用されておらず、荒れるがままに放置され、その部分につき賃貸借契約の更新を認めなくとも、当該賃貸借契約の建物所有の目的を達するのになんら支障のないような、特段の事由がある場合には、借地法四条一項につき、所論のような解釈を施して、土地の一部についての契約の更新を許さないことも可能であると考えるので、本件が右のごとき特段の事由を具えるものであるか否かを判断する。

<証拠>を総合すると、本件低地部分は、本件土地のうち道路に面した南側約三分の二にあたり、残りの部分より約五メートル低くなつているので、残地との間での事実上の区分をすることは可能であること、しかし、もともと本件建物は大正八年頃に被控訴人(またはその夫)が他から買受けて以来そのままの状態で今日まで現在地に建つているのであつて、本件賃貸借契約の成立した昭和二八年六月一日(この日時については当事者間に争いがない)には、既に存在していたものであること、本件土地は、建物の南側のほぼ正面にあり、建物と土地との位置関係は原判決別紙物件目録記載の図面のとおりであること(この位置関係については当事者間に争いがない)、このうち本件低地部分は、平担な、日当りのよい土地で、ふだんは主として被控訴人の孫たちの遊び場となつているが、夏には一家で昼食をとることもあり、常時雑草は刈り取られ、庭としての手入れも十分に行き届き、一部は果樹園となり、一部に草花の温床となつていること、そして、とくに本件低地部分の存在によつて、本件建物には完全な日照、通風の恩恵が与えられ、庭の景観も保障されていることが認められる。

以上の事実よりみるならば、本件賃貸借契約は、当初より本件低地部分を含めた本件土地の全体を、もつぱら本件建物の敷地ならびに庭として使用する旨の諒解の下に締結されたものと考えらざるをえない。そして、土地の使用は、今日に至るまで右の目的のとおりに行なわれているとみるべきである。従つて、もし、被控訴人が。本件低地部分についてだけでも、その賃借権を失うとするならば、それまで有していた本件建物についての生活上、環境上の利益を著しく阻害されるであろうことは明らかである。

してみれば、本件低地部分について、前記の特段の事由は、とうてい認めることができないから、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

四以上のとおり、控訴人の請求は、本位的請求も予備的請求も理由がないので、これを棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がない。よつて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(室伏壮一郎 小木曾競 横山長)

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